近年、私たちの働き方は多様化し、特に20代から40代といった若い世代を中心に「フリーランス」という選択肢が急速に広がっています。IT技術の進歩によるクラウドソーシングの普及や、コロナ禍を経験したことによる働き方の意識変化、副業からのステップアップなど、その背景は様々です。自由な時間配分、場所にとらわれない働き方、そして自身のスキルを直接収入に結びつけられる魅力は、多くの人を惹きつけています。
しかし、その自由と引き換えに、これまで会社が担ってくれていた「年金」「保険」「税金」といった重要なセーフティネットや手続きは、すべて自分自身で管理する「自己責任」に変わります。特に、これからのキャリアを築く20~40代にとって、これらの知識は安定したフリーランス生活を送る上で不可欠です。
今回は、フリーランスとして知っておくべき年金・保険・税のポイントと、賢い対策法を総点検しましょう。
フリーランスになったらココが変わる!
会社員とフリーランス(個人事業主)では、社会保障や税制面で大きな違いがあります。
1. 年金:老後の安心を自分でデザインする
会社員の場合、国民年金と厚生年金の二階建て構造で、会社が保険料の半分を負担してくれます。しかし、フリーランスは原則として「国民年金(第1号被保険者)」のみに加入します。
- 影響: 国民年金だけでは、老後に受け取れる年金額が会社員に比べて少なくなる可能性が高いです。
- 対策:
- 国民年金基金: 国民年金に上乗せして加入できる公的な年金制度で、掛金は全額所得控除の対象となり節税効果も期待できます。
- iDeCo(個人型確定拠出年金): 自分で掛金を拠出し、運用益が非課税になる私的年金制度。掛金は全額所得控除の対象となり、高い節税メリットがあります。
- 小規模企業共済: フリーランスや小規模企業の経営者のための退職金制度。掛金は全額所得控除となり、将来のまとまった資金形成に役立ちます。
- NISAなどでの資産運用: 国民年金基金やiDeCoと並行して、NISA(少額投資非課税制度)などを活用し、自身で積立投資を行うことも重要です。
2. 保険:もしもの時に備えるセルフディフェンス
会社員は健康保険、雇用保険、労災保険に加入していますが、フリーランスはこれらの公的保険の一部が利用できません。
- 健康保険:
- 原則として「国民健康保険」に加入します。保険料は全額自己負担となり、扶養という概念がないため、家族がいる場合は保険料が高くなる傾向があります。
- 勤務していた会社の健康保険組合に、一定期間「任意継続」で加入できる場合もあります。
- 特定の業種向けの国民健康保険組合(例:士業、建設業、IT・クリエイティブ系など)に加入できる場合もあります。
- 雇用保険: フリーランスは雇用保険に加入できません。失業しても失業給付金は受け取れません。
- 労災保険: 原則として労災保険の適用もありません。仕事中の怪我や病気に対する公的な補償がないことを意味します。
- 対策:
- 民間の医療保険・がん保険: 病気や怪我での入院・手術に備え、民間の医療保険やがん保険への加入を検討しましょう。
- 所得補償保険: 病気や怪我で働けなくなった際の収入減をカバーする保険です。
- 個人賠償責任保険: 仕事中に顧客や第三者に損害を与えてしまった場合の賠償責任に備える保険です。
- 十分な貯蓄: 何かあった際の生活費や医療費に充てられるよう、日頃から計画的に貯蓄することが重要です。
3. 税金:確定申告はフリーランスの宿命
会社員は年末調整で税金の手続きが完結することがほとんどですが、フリーランスは原則として自身で確定申告を行う必要があります。
- 主な税金: 所得税、住民税、消費税(課税売上高による)、個人事業税(所得による)などがあります。
- 対策:
- 青色申告承認申請書を提出: 承認を受ければ、最大65万円の青色申告特別控除が受けられるほか、赤字の繰り越し、家族への給与(青色事業専従者給与)を経費にできるなど、大きなメリットがあります。
- 帳簿付けの習慣化: 収入や支出を正確に記録することが、確定申告の基本です。会計ソフトを活用すると効率的です。
- 経費の管理: 仕事に関連する支出は、領収書を保管し、漏れなく経費として計上できるようにしましょう。
- インボイス制度への対応: 2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、フリーランスの仕事に大きな影響を与えます。自身の登録の有無や、取引先との関係性を考慮し、対応を検討する必要があります。
- 税理士への相談: 複雑な税務や節税対策に不安がある場合は、税理士に相談することを検討しましょう。
まとめ:自律した働き方には「自律したお金の管理」を
フリーランスという働き方は、確かに自由で魅力的です。しかし、会社という枠組みから外れることで、これまで見えにくかった「お金」に関するリスクや責任が明確になります。
特に20~40代でフリーランスを選択する皆さんは、自身の長いキャリアを見据え、年金、保険、税金といった社会保障制度を深く理解し、自らで適切な対策を講じることが、安定したフリーランス生活を送る上での絶対条件です。
自由な働き方を享受するためにも、お金の管理という「セルフケア」を怠らず、計画的に未来を築いていきましょう。
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