資産を売って借りる?「セール&リースバック」をわかりやすく解説

コラム
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 企業が事業を拡大したり、経営を立て直したりする際に、資金調達は常に大きな課題となります。その中で、「資産はあるけれど現金がない」という状況を打開するユニークな方法として注目されているのが、「セール&リースバック」という手法です。

 「売って、また借りる?」と聞くと、少し不思議に感じるかもしれません。しかし、この仕組みを理解すると、多くの企業がなぜこの方法を選ぶのか、そして個人の生活においても選択肢となり得る理由が見えてきます。実際に、**近年その利用は企業・個人ともに増加傾向にあります。**

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セール&リースバックとは?その仕組み

 セール&リースバック(Sale and Leaseback)とは、企業や個人が所有する不動産(土地や建物)や設備などの資産を第三者に売却し、同時にその売却した資産を、売却元である企業や個人が賃借(リース)して引き続き使用するという取引手法です。

 その手順は以下のようになります。

1. 企業や個人(売主兼借主)が所有する資産を買い手(貸主)に売却し、売却代金を受け取る。
2. 同時に、その資産を企業や個人(売主兼借主)買い手(貸主)から賃借する契約を結び、賃料を支払うことで継続して利用する。

 これにより、企業や個人は資産の所有権を手放す代わりに、まとまった資金を得て、なおかつ事業や生活に必要な資産を使い続けることができるのです。

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企業がセール&リースバックを選ぶ理由(メリット)

 なぜ企業は、わざわざ所有している資産を売却し、賃料を支払ってまで借り続けるという複雑な手法を選ぶのでしょうか?そこには、主に以下のようなメリットがあります。

1. 資金調達・資金繰りの改善

 これがセール&リースバックの最大の目的です。
 土地や建物といった固定資産は多額の資金が拘束されていますが、これを売却することで、まとまった現金を手に入れることができます。これにより、運転資金や設備投資資金の確保、有利子負債の返済、新規事業への投資など、様々な用途に資金を充てることが可能となり、企業の資金繰りを大きく改善できます。

2. 財務体質の強化・自己資本比率の改善

 資産を売却することで、バランスシート上の固定資産を減らし、現金を増やすことができます。これにより、総資産が圧縮され、自己資本比率や流動比率といった財務指標が改善される可能性があります。特に負債の多い企業にとっては、債務圧縮につながり、金融機関からの評価を高める効果も期待できます。

3. 税務上のメリット

 資産を所有している場合は減価償却費を計上しますが、リースバックでは支払う賃料を全額損金(経費)として計上できます。これにより、課税所得を減らし、税負担を軽減できる可能性があります。ただし、税制は複雑であり、個別の状況によって異なるため、専門家への相談が不可欠です。

4. 資産管理の効率化

 不動産などを所有していると、固定資産税や修繕費、維持管理費などの負担や手間が発生します。セール&リースバックを行うことで、所有に伴うこれらの管理業務から解放され、企業は本業に経営資源を集中できるようになります。

5. 事業継続性の確保

 資金調達のために事業所や工場を売却しても、リース契約を結ぶことで、同じ場所で事業活動を継続できます。これは、従業員の雇用や取引先との関係を維持する上で非常に重要な点です。

個人がセール&リースバックを選ぶ理由(メリット)

 近年、個人が自宅を売却してリースバックするケースも増えています。特に高齢者層に注目されており、以下のようなメリットが挙げられます。

1. まとまった現金の確保

 自宅は最も大きな資産の一つですが、通常は現金化しにくいものです。リースバックを利用することで、自宅に住み続けながら、老後の生活資金や医療費、借金返済など、まとまった現金を得ることができます。

2. 住み慣れた家に住み続けられる

 自宅を売却しても、引っ越しをせずに住み慣れた環境で生活を継続できる点が最大のメリットです。自宅を担保にしたリバースモーゲージなどと異なり、売却による資金化のため、よりまとまった資金が得られる場合もあります。

3. 固定資産税や維持管理の負担軽減

 自宅の所有権を手放すため、固定資産税の支払い義務がなくなり、大規模な修繕費なども原則として不要になります(賃貸契約の内容によります)。これにより、高齢になってからの管理負担や経済的負担が軽減されます。

4. 相続対策

 自宅を現金化することで、不動産を相続する手間や相続人同士での分割の課題を回避し、現金としてスムーズに分割できるため、相続対策の一環として検討されることもあります。

セール&リースバックの注意点(デメリット)

 多くのメリットがある一方で、セール&リースバックには企業・個人共通で注意すべきデメリットも存在します。

1. 所有権の喪失と資産価値上昇の恩恵を受けられない

 資産の所有権は買い手に移るため、将来的にその資産価値が上昇しても、その恩恵を受けることはできません。例えば、売却した不動産の価格が将来的に大きく上がったとしても、元々所有していた企業や個人は売却益を得られません。

2. 賃料の支払い義務が発生

 売却後も資産を使い続けるためには、当然ながら賃料を支払う義務が生じます。この賃料負担が長期的に経営や生活を圧迫する可能性も考慮しなければなりません。また、契約期間中の賃料改定条件なども慎重に確認する必要があります。

3. 再売却ができない

 一度売却した資産は、もはや自社の所有物ではないため、将来的に売却して再度資金を調達することはできません。

4. 契約内容による制約

 リース契約の期間、賃料の条件、更新時の条件、中途解約の可否など、契約内容は多岐にわたります。これらの契約条件によっては、将来的な事業戦略や生活設計に制約が生じる可能性もあります。特に個人契約の場合、賃料の滞納は退去につながるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。

5. 税務上のリスク(金銭貸借とみなされる可能性)

 形式的には売買と賃貸ですが、国税庁の「タックスアンサー」にも示されているように、その資産の種類や売買・賃貸に至る経緯などから、一連の取引が実質的に「金銭の貸借」であると税務署に認められる場合があります。この場合、税務上は売買がなかったものとされ、賃貸人(買い手)から賃借人(売り手)への金銭の貸付けがあったものとして処理されるため、期待した税務メリットが得られない、あるいは予期せぬ税金が発生するリスクがあります。契約を検討する際は、事前に税理士などの専門家に相談し、実質が金銭の貸借とみなされないような契約形態か、税務上の影響を十分に確認することが極めて重要です。

どのようなケースに向いているか?

 セール&リースバックは、以下のような企業や個人にとって特に有効な選択肢となり得ます。

  • 企業:
    • 緊急にまとまった資金が必要だが、事業に必要な資産は手放したくない。
    • 財務体質を改善し、金融機関からの評価を高めたい。
    • 固定資産の管理負担を減らし、本業に集中したい。
    • 事業継続性を確保しつつ、新たな成長戦略のための資金を調達したい。
  • 個人:
    • 自宅に住み続けながら、老後の生活資金や医療費、借金返済などのまとまった現金が必要。
    • 自宅の維持管理や固定資産税の負担を軽減したい。
    • 将来の相続を円滑に進めるために、自宅を現金化したい。

まとめ:戦略的な資金調達・生活設計手段として

 セール&リースバックは、単なる資産の売却ではなく、資金調達や財務戦略、個人の生活設計を兼ね備えた高度な手法です。特に、事業や生活に必要な資産を手放さずに現金化できる点は、企業や個人にとって非常に魅力的です。

 しかし、そのメリットを享受するためには、所有権の喪失や賃料負担といったデメリット、そして将来的なリスク(特に税務上のリスク)を十分に理解し、税理士や弁護士、不動産の専門家と相談しながら慎重に検討する必要があります。ご自身の状況と将来の計画に照らし合わせ、最適な選択をすることが成功の鍵となるでしょう。

 

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