暗号資産(仮想通貨)への投資や事業が広がる中、その税制は個人と法人で大きく異なります。特に日本では、暗号資産の特性に合わせた税制の議論が進められていますが、現状では明確な違いが存在します。
個人の暗号資産税制
個人の暗号資産取引で得た利益は、原則として「雑所得」に区分されます。
- 税率: 他の所得と合算される「総合課税」の対象となり、所得が増えるほど税率が上がる累進課税が適用されます。所得税の最高税率は45%に、住民税10%を合わせると最大55%に達します。
- 課税対象となるタイミング:
- 暗号資産を法定通貨(日本円など)に売却したとき
- ある暗号資産を別の暗号資産に交換したとき
- 暗号資産を使って商品やサービスを購入したとき
- 損失の取り扱い: 他の所得との「損益通算」は原則としてできず、発生した損失を翌年以降に繰り越す「損失の繰越控除」も現状は認められていません。
- 計算方法: 取得価額の計算には「移動平均法」または「総平均法」が用いられます。
- 確定申告の目安: 給与所得者の場合、主たる給与所得以外の所得(雑所得、不動産所得など)の合計が年間20万円を超えると確定申告が必要です。暗号資産による所得が20万円以下であっても、他の副業収入などと合わせて20万円を超える場合は確定申告が必要となります。住民税については、所得額にかかわらず申告が必要となる場合があります。
- 今後の動き: 2025年度の与党税制改正大綱では、暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品」と位置づけ直し、上場株式などと同様に一律20.315%の申告分離課税への移行や、損失繰越控除の導入が検討されています。これは投資家保護の強化や、交換業者への報告義務整備を前提としたもので、今後の法改正に注目が集まっています。
法人の暗号資産税制
法人が暗号資産を保有・取引する場合、個人の場合とは異なるルールが適用されます。
- 税率: 法人税の対象となり、実効税率は企業の規模や所得額によって異なりますが、一般的に最大で約35%程度です。個人の最高税率と比較すると低い傾向にあります。
- 損失の取り扱い:
- 暗号資産取引で生じた損失は、法人全体の所得計算において、他の事業活動から生じた利益と相殺されます。
- 赤字となった場合は、その損失を最大10年間にわたって繰り越す「欠損金の繰越控除」が認められます。これは、個人の税制と比べて大きなメリットです。
- 期末時価評価:
- 従来、法人は保有する暗号資産について、期末時点で時価評価を行い、含み益であっても課税対象となっていました。これは、暗号資産の価格変動が大きい場合、未実現の利益に対して納税義務が生じるという点で、法人にとって大きなデメリットであり、資金繰り上の負担となる可能性がありました。
- しかし、令和6年度税制改正(2024年度)により、他社発行の暗号資産(自社発行ではないもの)のうち、発行時から継続して譲渡制限が付されているなど、一定の要件を満たすものについては、期末の時価評価による課税対象から除外されることになりました。これにより、企業が単純に暗号資産を保有しているだけで含み益に課税されるという状況が一部緩和されました。ただし、広く市場で流通しているビットコインやイーサリアムなど、譲渡制限のない多くの暗号資産は依然として時価評価の対象となります。
- 今後の動き: 業界団体からは、法人においても、暗号資産をより円滑に事業活用できるよう、現行の税制上の課題(特に期末時価評価の更なる見直しや、会計処理の明確化など)の解決が要望されています。個人の税制改正の議論と同様に、Web3.0産業の発展を後押しするための税制見直しの議論が進められています。
個人と法人の税制比較のまとめ
項目 | 個人 | 法人 |
---|---|---|
所得区分 | 雑所得(原則) | 法人所得 |
税率 | 総合課税(累進課税、最大55%) | 法人税率(実効税率最大約35%) |
損失繰越 | 原則不可 | 最大10年間繰越可能(他の所得と損益通算可) |
含み益課税 | 発生しない(売却など実現時のみ課税) | 一部を除く広範な暗号資産で発生する(期末時価評価は負担となる可能性) |
課税タイミング | 売却、交換、使用時 | 期末時価評価(一部緩和)、売却、交換、使用時 |
今後の方向性 | 申告分離課税(約20%)化、損失繰越導入を検討中 | 期末時価評価等の更なる見直し、事業活用しやすい税制を検討中 |
このように、現在の日本の税制では、暗号資産の課税において個人と法人で大きな違いがあります。特に損失の取り扱いや期末時価評価の有無が、法人で暗号資産を保有・運用する際の税務上の留意点となっていました。しかし、今後の税制改正の動向によって、この状況は大きく変わる可能性があります。最新の税制情報を確認し、ご自身の状況に合わせた適切な対応を取ることが重要です。
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